ねても醒めても





大きくなったら、洋平と結婚するって決めてた。
オレがまだ子供で洋平は大人でとか、オトコ同士だからとか、 そんなんは関係ねー。
オレがするって決めたらそうする。
洋平はきっと待っててくれるってそう思ってた。
いつまでもオレのそばにいて、タバコを吸いながら 「花道は可愛いな」ってオレの頭を撫でて。
ずっと、ずっとそうやっていつまでも一緒にいれるって そう思ってた。
そう。あの日がくるまでは―。
あの、人生最悪の日がくるまでは。





* * * * *




「はーなーみーちー!!マイ、スイートハニー!! おっはよーっっ!!朝だよ!!朝練のじ・か・ん・だよっっ」
朝っぱらから大声で呼ぶ声に、花道はうんざりしながら目を開けた。
枕で耳元を覆う。
「はーなーみーちー!!どうしたのっ?具合でも悪いの? ああーいやだよ!オレを置いて先にいってしまうなんて!!」
花道はがばっと飛び起きた。
「ばかやろーっっ!!勝手に殺すんじゃねーよ!!朝からうるせーんだよ!! いっぺん死ね!!」
ガラっと窓を開けて、隣の家の窓から顔を出している男に向かって怒鳴る。
「やー、今日も可愛いな。オレってホント幸せもの」
「マジで、一回死ぬか?」
花道は、はーっとため息をつきながら言った。
目の前のにこにこと幸せそうに微笑む男は、仙道彰。花道の1つ上の 幼馴染である。
朝早い時間だというのに、髪の毛はしっかりとツンツン逆立った形に セットされている。女には不自由しない整った顔立ち。身長191センチ。
モテモテのバスケ部エースだ。
ただし、それは世間一般の評価だ。花道にとってはハタ迷惑な隣の住人。
それ以上でもそれ以下でもない。
いや、バスケではちょっと評価しているが、それを打ち消すほどの 迷惑を花道は毎日こうむっていた。
「センドー、そうやって毎朝呼ぶの、やめてくんねーか?近所の目って もんがあんだろーが」
「え?なにそれ?花道を好きだってこと、オレは誰にも隠そうなんて 思わないよ?むしろ世界の中心で愛を叫びたい感じ」
「だー!!オメーはいいかもしれねーがよ、恥ってもんがねんだからよ。 オレが迷惑だっつってんだよ!!」
「……つれないなあ。いつになったら分かってもらえるんだろう、オレの気持ち」
仙道がちょっと寂しそうにつぶやいた。
「一生、ムリだな」
花道が言うと、仙道がそりゃないよ、という情けない顔をする。
それを無視して、窓を閉めると、支度を始めた。
仙道のああいった言動にはどうにも付き合っていられないが、バスケの 練習はまた別の問題である。
花道と仙道は同じ高校に通い、かつバスケ部に所属している。
小学生の頃からバスケをしていた仙道に反発して、ずっと知らんふりを 決め込んでいた花道だったが、高校に入ると、我慢が出来ずに始めてしまった。
「天才仙道」。隣の変態にそんな呼び名がついているのはどうしても許せない。
天才は自分ひとりで十分だ。
花道は支度を終えると、そっと階段を下りた。あさの5時。階下はまだ 静かで、人の起きている気配はない。
そっと玄関に向かうと、
「よっ。毎朝がんばってるな」
「…洋平、起きてたのか?」
くわえタバコで新聞を脇にかかえ、洋平が立っていた。
「ああ。しかし彰も毎朝よくお前につきあってくれるよなあ」
「アイツの声がうるさくて目が醒めたんだろ?…ったく」
「いいじゃないか。あんなに一生懸命になって教えてくれるんだから。 感謝しなきゃな」
「オレが教えてもらってんじゃねーよ、オレがあいつに仕方なく 付き合ってやってんだ!」
「…はいはい。頑張ってこいよ」
洋平は軽く手を上げると、自室へ引き上げようとし、ちょっと 足を止めて振り返った。
「…そうだ。今日は晴子ちゃんが夕飯作りに来てくれるってよ。 お前、会うの久しぶりだろう?練習大変なのは分かるけど、 早めに帰ってこれないか?」
「……試合前だからな。分からねー」
「……そうか」
洋平はちょっと寂しそうな顔をした。洋平のこの顔を見るたびに、 花道は胸がぎゅっとなってしまう。
「出来るだけ早く帰るようにするからよ」
「そうか。…すまん。引き止めちゃったな。彰、待ってるぞ」
「あんなやつ、いくらでも待たせておきゃーいいんだよ」
洋平は苦笑すると、今度こそ部屋へ入って行った。
花道はその背中が消えるまで見送ると、玄関の戸を開けて外へ出た。





* * * * *




洋平は、花道の保護者である。一緒に住んではいるが、血が繋がっている わけではない。花道の父親の大親友。それが洋平だ。
花道の両親は花道がまだ小さい頃に事故で亡くなり、誰も引き取り手がなく 施設に入るところだったのを、洋平が引き取って育ててくれたのだ。
両親の思い出のある地で育ててやりたい…と言って。
洋平が20歳。花道が3歳の時のことであった。
でも花道は両親の顔など覚えていないし、思慕の情がないわけではないが、 それよりも何より、洋平のことが大好きだった。
やさしくて、大人で、いつも花道を一番に考えてくれる洋平。
昔はかなりやんちゃで、ケンカも強かったらしい。そんなところも 花道は尊敬していた。
洋平が花道に父親の話を聞かせてくれるたび、花道は自分の知らない洋平を 知っている父親に嫉妬を覚えたほどだ。
それほど、大好きだった。
小さい頃は、洋平と結婚すると言っては、周りの大人を笑わせた。 花道は真剣だったのだが。
でも、そんな夢もはかなく消えてしまった。
―男同士だからという理由ではなかったが。





「はなみちぃー。元気ない顔してるね。本当に具合悪いの?」
仙道がそっと花道の額に手を伸ばして触れる。
考え事をして、油断していたらしい。花道はばっと仙道の手をはらった。
ちょっと気を抜くと、すぐこうやってベタベタしてくる。
仙道は本当に変態ヤローだ。
子供の頃からなにかと花道をかまっていた仙道だが、段々と執着が 強くなっているように感じて、最近なんだか引いてしまう花道だった。
「うっせーな、ちょっとぼーっとしてただけだ。ほら、次のオフェンス、 てめーからだぞ」
「はいはい」
仙道は残念そうにボールを受け取ると、バン、バンと軽くドリブルを 始めた。
花道と仙道はいつものように、近所のバスケットコートのある公園へ 朝練をしに来ていた。花道がバスケを始めてから、雨の日以外は 毎日こうして二人で練習している。
花道の本来の素質とこの朝練おかげで、花道は一年にして陵南高校 バスケ部のスタメンの座を獲得していた。
だがまだまだ仙道には及ばない。悔しいが、それが現実だ。
仙道がドリブルをしながら、ふーっと息を吐き出す。
いつも何を考えているのかいないのか、へらへらしている顔が、 ふっと変わる瞬間。
―来る。
花道は腰を落とし、仙道の攻撃を待ち構えた。仙道がほんの僅か、 視線を右に落とす。右。いや、それとも…。
花道の一瞬の迷いを読んだように、仙道がダンッと左を抜いてきた。
(っしまった…!)
思った時にはもう遅い。振り返ると、仙道はゴールにダンクを 叩き込んでいた。
「…………!!!」
「オレの勝ちだね」
振り返ってにこっと笑った顔が猛烈にシャクにさわる。
オフェンスにしろ、ディフェンスにしろ、仙道に勝てる割合は 1割にみたない花道であった。
「オレ倒すつもりなら……」
悔しさに固まっている花道に、仙道が近づきながら言った。
「ほっぺでいいからキスしてよ!」
ごんっっ!!!
花道の頭突きが仙道を直撃したのは、いうまでもない。




* * * * *




「おはようございます!仙道さん、桜木さん!今日も一緒に登校ですね!いやあ、 うらやましい。青春やわあー!!」
「シメられてーのか、てめえ」
花道がぎろっとにらむと彦一はびくっと身をすくませた。
「じょ、冗談ですって。いややなあ、もう。ね、仙道さん」
そう言って仙道を見上げた彦一はぎょっと顔を歪ませた。
「せ、仙道さん、その額…」
「はっはっはっ。いや、ちょっとね…」
「どうせ、桜木にやられたんだろう」
後ろから越野が声を掛けてきた。
「よう、越野」
仙道が越野の方を振り返る。
「……すげーな。相変わらず、猟奇的だな。お前の彼女」
「だれが彼女だ!!ぶっころされてーのか!!」
今日の花道は機嫌が悪いのだ。朝からイヤなことばっかりだ。
花道は越野を持ち上げると、ぶんっと放り投げた。
「ふんぬーっっっ!!!」
「うわああああっ」
「こ、越野さん!!」
越野は吹っ飛び、宙を舞った。登校中の生徒たちが驚きの叫び声を上げる。
だが。
越野は後ろから歩いてきた人物に、どんっと受け止められた。
間一髪だ。
「あ、おはようございます。魚住さん…」
越野が自分を受け止めた人物を見上げて言った。
「お前ら、朝から何をやっているんだ…」
バスケ部キャプテンの魚住は怒りでふるふると震えていた。
「こんなんだから、バスケ部は頭がおかしいと言われるんだ! 大体、原因はお前じゃないのか!!仙道!!」
仙道は耳をふさぎ、肩をすくませる。
「仙道は、悪くない」
またまた後ろから聞こえてきた声に、花道が反応した。
「オレが悪いっていうのか、フク助」
「そうじゃない。越野がからかったのが悪い」
福田の重々しい審判の声に魚住も納得したのか、越野を下ろすと、 「騒ぎは起こすなよ」
と言い捨てて、さっさと歩いて行ってしまった。
お説教は延期らしい。
つきあっていられないというのが本音であろう。
「福ちゃん、サンキューな」
「…………」
福田は黙って仙道の方にうなずくと、越野を見た。
「あー、そうだよ、オレが悪かったよ」
越野がバツが悪そうにつぶやく。
だが、彼とてただ面白がって仙道と花道のことをからかっているのではない。
仙道に近づきたい女の子たちのバトルに巻き込まれて、その後始末で気苦労を 重ねている越野であった。
そんな彼にとって花道はその受難を逃れるためのいい生贄なのだ。
本当に仙道が花道を好きだとは信じたくない気もしていたが。
「くっそー。てめーらのせいで、遅刻じゃねーかよ」
花道の声に皆がハッとする。予鈴まであと1分。
「ああ、まずい!!走れ!!」
今日もにぎやかな一日になりそうだった。






大好きなバスケをしていてさえ、心を占めるもの。
花道は、はあっとため息をついた。
「どうしたの?やっぱり様子がおかしいね」
居残りというにももう遅い時間になってしまった。
花道は体育館の外に面したコンクリートの階段に、ぼんやりと座っていた。
付き合って居残りをしていた仙道が、その隣に座る。
「さすがに、疲れた?もう9時だもんな」
「…そんなんじゃねーよ」
「じゃあ、どうしてそんな顔してるの?」
「……………」
どうして仙道はいつもいつもこう自分のことを気にするのだろう?
自分のことを好きだなんて言っているけど、男同士じゃないか。
―洋平と結婚すると本気で考えていたことも棚に上げて、花道は考える。
それに、いつもヘラヘラしていて、言っていることも本気なのか冗談 なのかよく分からない。
それでも、こんな風に落ち込んでいるときには、やさしげな言葉は何故か 心にすっと入り込んでくる。
それが例え胡散臭い仙道の言葉であってもだ。
花道はふっと息を吐いて、体の力を抜いた。
「ハルコさんが、今日夕飯作りにきてくれてるんだ」
「…ああ、赤木先生ね」
「そう」
二人はちょっと黙った。
赤木晴子は花道の小学校の頃の担任だった。両親のいない花道に対して、 同情だけではない、とても暖かな感情をくれた女の人。
花道は晴子をまるで母親のように慕っていた。
そう、あのことを知る前までは。
「洋平君と赤木先生、いよいよ結婚するんだってな。オヤジに聞いたよ」
「………………」
「花道は、嬉しくないの?赤木先生が、お前の母さんになるわけだろう?」
「母さんなんかじゃねーよ。洋平の、奥さんになるだけだろう」
仙道なんかに言いたくなかったのに、ついポロッと本音が出てしまった。
大好きな洋平と、大好きな晴子。この二人を結び合わせたのは自分だ。
二人とも大好きなはずなのに、このどうしようもない寂しさはなんだろう。
自分だけが、つまはじきにされたような。
居場所を失ってしまったような。
いつも花道だけを見ていてくれた洋平。だが今、洋平が見ているのは…。
「花道は、寂しいの?」
「………………」
「オレじゃ、洋平君の代わりになれないかな?」
その言葉に、花道は仙道のほうへ顔を向けた。
「なに言ってんだよ、てめー」
「オレは、いつも言ってるだろう?花道のこと、好きなんだよ。洋平君に 負けないくらい」
「……………」
いつもの冗談めかした口調ではなく、こうやって静かに向かい合って言われると、 なんて返していいのか分からなくなってしまう。
仙道の表情はとても真摯で、可笑しいと思うのに、笑えなかった。
「…どのくらい、好きなんだ?」
そんな言葉は予想していなかったのか、仙道はちょっと驚いた顔をした。
「そうだな。例えば…。夜、寝るだろう。その前にお前のことを考える。今日の花道は 朝から元気で、昼見かけたときもカツ丼大盛りにコロッケとサンマと焼きそばと ホイコーロー食ってたなとか。監督に怒られたなとか。 シュート練習がんばってたな、とか…。そうすると、たいていお前の夢を見る」
「………………」
「夢をみて、目が覚めると、またお前に会える。またお前と話せる。毎日朝が待ち遠しくて、 楽しくて、ワクワクした気持ちになれるんだ」
花道はどんな顔をしていいのか分からず、下を向いた。
「…どんな夢、見るんだよ?」
「え?」
「だから、オレの夢」
「………………」
なぜか仙道は顔を赤らめ、ぽりぽりと頭を掻いた。
「なんだよ、早く言えよ」
「言ってもいいの?」
「は?何言ってんだ?てめー」
「ちょっと耳かして」
花道は眉をよせた。二人きりでいるのに、なぜそんなコソコソ話さなきゃいけねんだ?
仙道が花道の耳に手をあてて、何事かをボソボソとつぶやいた。
次の瞬間、花道のパンチが、仙道の頬に炸裂した。





* * * * *




家に帰ると、まだ晴子が待っていた。
「花道君、おかえり」
「花道、遅かったな」
二人は仲良くテーブルに向かい合って座っていた。
「すまん。…練習が長引いて」
「いいのよぅ。ね、見て!花道君の好きなエビフライ作ったの。おなかすいたでしょう? 今お味噌汁あたためるね!」
「…オレ、着替えてきます」
「うん」
にっこりと微笑む晴子に背を向けて、二階への階段を上った。
部屋へ入ってドアを閉めると、はあっとため息をついた。
…うまく話せただろうか。
仙道と話した後、少し気が楽になったと思ったのだが、ああいう二人を見ると、 やはりつらかった。
コンコン、とノックの音が響いた。
「…花道?ちょっといいか?」
洋平がドアを開けて顔をのぞかせた。
「…なんだ?」
洋平が部屋の中に入ってきて、ドアをしめた。
「その…。悪かったな、と思って。結婚のこと、ロクに相談もしなかっただろう? お前は晴子先生のこと好きだから、大丈夫だと思ってさ。でも、もし、お前が いやだって言うなら、俺たちは別に…」
「なんだよ、いきなり。なんでそんなこと言うんだよ」
「なんでって…。そうだな。晴子ちゃんが、なんだか花道がオレたちに遠慮 してるんじゃないかって心配してて。お前、最近帰りも遅いだろう?」
「……………」
「あのな、花道。よく聞いてほしいんだけど。オレは晴子ちゃんが好きだけど、 花道がもっと大事だってこと。オレも晴子ちゃんも、花道のことを一番に考えてるってこと、 知っておいてほしいんだ」
「……………」
そんな言葉が、聞きたいんじゃない。洋平は何も分かってない。
「オレが、可哀相だからかよ」
「花道………」
洋平の困惑したような目に、ふいに感情が爆発した。
「オレは、洋平が好きなんだよ!!洋平だって知ってるだろう!? オレがジャマならそう言えばいいじゃねーか!!いい人ぶってんじゃねーよっ!!」
花道は叫んだ。
一瞬の沈黙。
だが、その沈黙はかすかな物音によって破られた。
洋平がそっとドアを開ける。部屋の前に、晴子が立っていた。
その顔は青ざめている。
「あ、あの…。ごめんなさい。お味噌汁がさめちゃうと思って…。ごはんも。 あと、エビフライはね、タルタルソースも手作りなの…。 タルタルソースっていうのはね、玉ねぎとゆで卵を刻んで、パセリも刻んで、 それにマヨネーズを入れるんだけど、そこにちょっとヨーグルトを足すと…」
「晴子ちゃん」
洋平が晴子の言葉をさえぎった。
「ご、ごめんなさい。いやだわ、私何言ってるのかしら…」
晴子はそう言うと、後ろを向き、だっと駆け出そうとした。
だが、つまづいて転んでしまった。パンツ丸見えだ。
…でも、誰も笑えなかった。
晴子は立ち上がると、階段を下りた。
「晴子ちゃん、まてよ……!!」
洋平があとを追う。
花道はそれをまるでテレビの中の出来事のように現実感がないまま、呆然と見送った。




ぐるぐると目が回る。なにも考えられない。いい気分なのか、気持ちが悪いのか、 それすらも分からない。
花道は酔っ払って、歩道橋の欄干にもたれていた。
あれから家を飛び出して、自販機で酒を買い、めちゃくちゃに飲んでしまった。
自分が嫌で、家にも帰りたくなくて。何も考えたくなくて。
人通りは少ないが、それでも通りかかった人々は赤い頭の、正体を無くした 大男を怖がるように、引き返すか、出来るだけ遠くを通って歩いていった。
「ばっきゃろー!!見せもんじゃねーぞ!!」
花道は叫び、ぎゃはははっと笑った。
威勢はいいが、今の花道は、例え犬にオシッコをかけれられても追い払えないだろう。
ベロベロだった。
花道は欄干に寄りかかり、ずるずると座り込んだ。
意識が遠くなっていく。
不意に、目の前に影が下り、誰かが花道の前に立った。
「花道、探したよ」
「よう、センドーか。おめーも飲め!!」
「ばかだなあ、お前。…こんなに飲んで。お前はバスケットマンなんだよ」
「はあ?バスケット?んなもん…………」
仙道がかがみこみ、花道の髪をすくようになぜた。
「立てるか?家に帰ろう」
その手を、花道は渾身の力を込めてはらった。蝿もはらえないような動きであったが。
「花道……?」
「うるへーよ、オレに、かまふんじゃねー」
ろれつがまわらない。
「そんなこと言わないで。洋平君も探してるよ。さあ、家に帰るんだ」
「洋平が、オレをさがしてる?んなわけねーよ」
「……………」
「洋平は、オレが邪魔なんだよ。オレが、洋平を好きだから」
「花道…」
仙道はちょっと悲しげに眉を寄せたが、ふっと微笑んで言った。
「邪魔になんかしてないよ。洋平君は花道のことが大好きだよ。 オレが、ライバルを見逃すわけないだろう?」
「……………」
「今も一生懸命花道を探しているよ。呼んでみろ。絶対駆けつけてくるから」
仙道は歩道橋の下を指差した。
家に帰る人々の中。この中に洋平がいるのだろうか。
花道を探して。
花道は欄干をつかんで、身を乗り出した。
「よーへーっっ!!!」
大声で叫んでみた。
洋平、洋平と叫んでいる花道の横で、仙道は微笑み、
「はなみちー!!!」
一緒になって叫ぶ。
よーへー、はなみちー、と大声が夜の街に響いた。
道行く人々が二人を怪訝そうな顔で見ている。
花道は気が済むまで叫ぶと、仙道の方へ顔を向けた。
「ばかじゃねえ?お前。オレはここにいるぜ」
大声で叫んだら、つかえていたものがちょっと、とれたような気がした。 仙道はこんな自分すら受け入れて、微笑んでいる。何かに許されているような、 不思議な気分だ。
なんだか胸がいっぱいで、花道はかすかに涙ぐんだ。
ふいに、仙道がすっと顔を寄せ、花道に口付けた。
「………!」
こんな不意打ちに、怒らなきゃいけないはずなのに。
だが、花道はそっと目を閉じて、仙道の腕をつかんだ。
長いキスのあと、唇を話して花道は言った。
「オレ、洋平が好きなんだ。それでもいいのかよ」
「うん。もちろん」
仙道はそう言うと、にこっと笑って花道を抱きしめた。




* * * * *




それからのことはよく覚えていない。
気が付いたら、自分の部屋のベットに寝かされていた。
部屋の中で、人が話している気配がする。
だが、目をあけるのもおっくうで、そのままじっとしていた。
「お前、花道にキスしただろう?」
洋平の声がする。なんだかとても怒っているみたいだ。
「あ、見てました?ははっ」
「ははっじゃねえ!!なんかおかしいんじゃねーかと思ってたが…。 そんな邪まなこと考えてんなら、花道には近寄らせねーぞ!」
「やだなあ、洋平君。洋平君には晴子ちゃんって人がいるじゃないですか。 だから、花道はもうオレのもの」
「だから、なんでそんな理屈になるんだ!オレはお前と違って良識人なんだよ。 花道に手なんか、出せるわけねーだろ!」
「そこが、洋平君の弱いとこだよね。オレの方が、100倍花道を好きですよ」
「なにぃ!お前とは、年季が違うんだよ。オレは花道がこんな小さい頃から ずっと大事に守ってきたんだよ。お前より1000倍好きだ」
「じゃあ、オレは10000倍」
ごちゃごちゃと言い合っている二人の横で、花道はじっと黙っていた。
…もう今日はこのまま寝てしまおう。疲れたから。
なんだか仙道の夢を見るような、そんな気がした。





<FIN>






〜あとがき〜
えーと…。ギャグのつもりだったんですが、どうでしょう?
え?なってない?あわわ…。す、すみません!!
最初は原作設定で、洋平の一人称で書いていたのですが、あまりに生々 しくて(?)ギャグにならなかったので、パラレルという形にしてみたんですが…。 くう。ギャグって難しい!!
文中にもちょっと出てきましたが、「猟奇的な彼女」という映画の設定をちょっと 借りてみました。といってもビデオのパッケージをちょっと読んだだけなのですが。 すごく見たいのですが、見てしまうと影響されるので、やめました。(笑)
リクエストして下さった、tomiさま。ありがとうございました!
こんなヘボい話になってしまいましたが、とても楽しく書かせて頂きました。 どうか受け取ってやってください!
2003.8.14